パフォーマンス・フィードバック


1. 概要

 パフォーマンス・フィードバック(以下フィードバック)の定義は以下のとおりです。

これから行う行動を導くためのこれまでに行ったその行動についての評価や記録」
(杉山ら、1998)
パフォーマンスを変化させることが可能な、過去のパフォーマンスについての情報」
(Daniels, 1989)

 フィードバックの定義は、行動分析学においてよく出てくる機能的定義ということができます。

 つまり、フィードバックとは、「行動を導く」あるいは「パフォーマンスを変化させることが可能」という機能を有する、あるいはそのような効果が認められた場合にのみ、フィードバックであるということができます。

 なぜこの機能/効果にこだわるかというと、フィードバックと単なる情報/データの区別が必ずしも明確に行われておらず、そのことが、フィードバックプログラムを失敗に終わらせている原因の一つになっているからです(Daniels, 1989)。

 それ故、以下ではまずフィードバックと情報/データの区別を可能とするためにフィードバックをその性質により分類し、その分類を踏まえ、効果的なフィードバックの特徴を、過去のリサーチをもとに検討していきたいと思います。


2. フィードバックの分類

 Balcazar, Hopkins, & Suarez (1985)によると、フィードバックは、以下の2種類に分類されます。

弁別刺激
習得性好子(Learned Rainforcer) 註1)

 共通して言えることは、「フィードバック(厳密にいうと効果がなければフィードバックではないのですが)単体では決して効果がない」(Balcazar, Hopkins, & Suarez, 1985)ということであり、好子(もしくは嫌子)が何らかの形で(対)提示されることが必要ということです。

@弁別刺激としてのフィードバック
 弁別刺激とは、「その刺激がある時には特定の行動が強化されたり弱化され、その刺激がない時にはその行動が強化も弱化もされない刺激」(杉山ら、1998)のことを言います。そして、その刺激がある時には特定の行動がより起こりやすく、もしくはより起こりにくくなります。つまり、弁別刺激は行動の自発頻度に効果を及ぼします。註2)

 スキナー箱での典型的な例は、天井のライトです。ライトがついている時のみネズミがレバーを押すと水が出現し、レバー押しが強化される場合、このライトは弁別刺激です。

 ビジネスの分野における例としては以下のようなものがあります。お客さんと交渉する時に視線が泳ぎがちな新人営業マンに、その上司が「お客さんと話をしている時は、お客さんのネクタイの結び目か、あごのあたりを見ていなさい」と交渉の前にアドバイスをし、実際にその新人営業マンがその通りにしたとします。交渉終了後即座に「今回は良かった」と労いの言葉をかけたとします。その際のアドバイス(労いの言葉ではありません)が、弁別刺激としてのフィードバックです。(多少苦しい気はしますが)。

diagram1

 ただし、この上司が他の新人営業マンに、交渉の前に同じアドバイスをしましたが、その結果何も変化がなく、相変わらずその新人営業マンの目は泳ぎがちだったとします。この場合、このアドバイスは弁別刺激としてのフィードバックの例ではありません。単なる情報にすぎません。なぜなら、「これから行う行動を導く」こともなければ、「パフォーマンスを変化させることが可能」でもなかったからです。上述の「機能的定義」とは、このことを差しています。

A習得性好子としてのフィードバック
 習得性好子とは、「他の刺激と対提示されることで、好子としての機能を持った刺激、出来事、条件」(杉山ら、1998)のことを言います。

 スキナー箱での例は、ディッパー(ネズミが水を飲むためのチューブのようなもの)のカタンという音です。このカタンという音と水を対提示することで、ディッパーの音が習得性好子となります。

 ビジネスの分野における例としては、契約は取れていないが件数は沢山回っている新人営業マンに対して、上司が査定時に「契約は取れていないが、沢山客先を回っていることは評価できる」と今までの営業日報を片手に労いの言葉をかけ、その直後に高い酒をたらふく飲ませて上げた所、くさりかけていた新人営業マンがまた張り切って客先周りをするようになったとします。この際の労いの言葉は、新人営業マンの客先訪問行動に対する習得性好子註3)としてのフィードバックの例です。(結構苦しい気がしますが)。

diagram1

 このことに気をよくした上司は、他の契約が取れていない新人営業マンにも同様の労いの言葉をかけましたが、「契約が取れなくてもただ酒をのませてくれるなら」とその新人営業マンの客先周りの頻度がむしろ低下したとします。くどいようですが、この場合の労いの言葉は、新人営業マンの客先訪問行動を導いてもいなければ、変化させてもいませんので、フィードバックではありません。

3. 効果的なフィードバックの特徴



つづく










































10. 参考文献

Balcazar, F. B., Hopkins, B. L., & Suarez, Y. (1985-86). A critical, objective review of performance feedback. Journal of Organizational Behavior Management, 7(3/4), 65-89.
Daniels, A. C. (1989). Performance management; Improving quality productivity through positive reinforcement (3rd ed.). Tucker, GA: Performance Management Publications.
杉山尚子・島宗理・佐藤方哉・リチャード, W., マロット・マリア, E., マロット (1998) 行動分析学入門 産業図書
Malott, R. W., Whaley, D. L., & Malott, M. E. (1997). Elementary principles of behavior (3rd ed.). Upper Saddle River, NJ: Prentice Hall.
Michael, J. L. (1993). Concepts and principles of behavior analysis. Kalamazoo, MI: Association for Behavior Analysis.

11. 補注

註1) 原文では、条件性好子(Conditioned Rainforcer)と書かれています。
註2) 弁別刺激が行動の自発頻度に効果を及ぼす/及ぼさないというのは、意見が分かれるところのようですが、ここでは自発頻度に効果を及ぼすという立場を取ります。なお、「行動分析学入門」の定義では、弁別刺激とはあくまで手続き的な(Procedual)ものであり、弁別刺激が行動の自発頻度に効果を及ぼすという記述はありません。
余談ですが、Michael(1993)によると、認知心理学における弁別刺激の定義は、好子を予見/合図し、行動の有無にかかわらず、好子が入手可能であることを示すものだそうです。
註3) 厳密には、行動(客先周り)と直後条件(労いの言葉)の間が60秒以上空いている「60秒ルール」に反するため、労いの言葉は客先周りをする行動に対する好子ではありませんが、ここでは話を分かりやすくするために、60秒ルールは考慮していません。



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