なぜ「行動」に注目するのか?

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1. なぜ「行動」に注目するのか?

 私たちは心理学的に人間を理解しようとする際、パーソナリティー、やる気、モチベーション、危機感などの「心的概念」に依拠し、人間の行動を捉えようとしがちかと思います。

 例えば、「あの人はモチベーションが高い。常に新しい技術を身に付けようと努力している。どうすれば、あのような高いモチベーションを維持できるのだろうか」などという言葉はよく聞かれることかと思います。

 つまり、「高いモチベーション」という「心的概念」により、「新しい技術を勉強する」という「行動」が生じていると考えがちという事です。

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 しかし、このような「心的概念」を用いて「行動」を説明することの根拠は、実は非常に脆弱です。

 多くの「心的概念」は人の内部にあり、「行動」の原因となるよう考えられていますが、こうした内的な「心的概念」の存在は観察された「行動」そのものや「行動」の規則性から類推されているに過ぎず、ほとんどの場合、客観的に観察された事象,つまり外的な「行動」に還元することが可能です(渡邊、1998)。

 つまり、「あの人はモチベーションが高い」というラベリングを行う根拠は、結局のところ「新しい技術を勉強している」という「行動」を観察した結果に過ぎないということです。

 あるいは、「モチベーションが高い」という「心的概念」は、単に「技術を勉強している」という「行動」を言い換えているに過ぎない、ということも可能です。


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 このように、「心的概念」というものの実体は非常に曖昧です。なぜなら「心的概念」というものは、観察された「行動」から導き出されたものに過ぎないからです。

 さらに、この「心的概念」を導き出すという作業は、極めて主観に影響されるものであり、この「心的概念」というものの正確さもまた、非常に曖昧です

 例えば、こういう例はどうでしょうか。あるAさんは、毎日終電まで仕事をしています。その理由は、仕事の量が多いことと、仕事のペースが人より遅いことです。

 このAさんが毎日終電まで残業しているのを見て、その上司Bは、「彼はやる気がある」というかもしれません。しかし、このAさんが異動し、新しい上司のCさんは、仕事のペースが遅いのを見て、「彼はやる気がない」と言うかもしれません。

 果たして、このAさんは「やる気がある」のでしょうか、「やる気がない」のでしょうか。

 重要なことは、「やる気」という「心的概念」ではなく、Aさんが、どれだけの時間仕事をしているかという「行動」であり、この「行動」により生み出される「成果(パフォーマンス)」ではないでしょうか。

 そして、こうした「心的概念」に依拠していては、人間の「行動」を正確に把握できない場合も多々あるのではないかと思います。

 結局の所、こうした「心的概念」というものは、人間の「行動」あらわす「メタファー」であり、「多くの場合使用者がその本当の意味対象(レファレント)を明確に意識することなしに用いられている」(渡邊、1998)ものなのです。

 それ故、こうした「心的概念」にとらわれることなく、あくまでその実体である「行動」に着目していく方が、こと問題の解決を考えた場合には、有効かつ現実的なアプローチが取れるのではないでしょうか。

 なぜなら、問題の解決を糸口を「心的概念」といった「メタファー」に求めると、そこで原因の分析が滞ってしまうことが多いように思われるからです。

 例えば、全く新しい技術を学ぼうとしないプログラマDさんがいるとして、その上司のEさんがいくら言っても一向にDさんが新しい技術を学ぼうとしない場合、Eさんは、得てして「なぜいくら言っても変わらないんだ。結局やる気がないから何を言っても無駄だ」などど問題の原因を「心的概念」に帰し、それ以上は飲み屋で愚痴をこぼすだけ、などという場合はあるかと思います。

 しかし、問題は「やる気」があるかどうかではなく、あくまで、「技術の勉強をする」という「行動」が生じているかどうかということのはずです。そして、なぜ望ましい「行動」が生じないのか(あるいはなぜ望ましくない「行動」が生じるのか)を、「心的概念」に依拠することなく、あくまで観察可能な「行動」とその「行動」を生じさせる環境との関係を考えていくことこそが重要なのではないかと思います。

 行動分析学の目的は、「行動」の「説明」「予測」「統制」であると言われています。つまり、なぜある「行動」が生じるのか/生じないのかを「説明」し、どのような条件下ではこの「行動」が生じるのか/生じないのかを「予測」し、実際にこの「行動」を生じさせる/生じさせないよう「統制」するということです。その際にもっとも重視するポイントが、「行動」の直後にどのような環境の変化が生じているのか、と言うことです。なぜなら、この環境の変化こそが「行動」に対して最も影響力を及ぼすことが、長年のリサーチの結果から分かっているからです。

 こうした科学的な「行動の原理」を理解・活用し、問題の解決をはかる方が、管理者がいたずらに個人のパーソナリティーを攻撃したり、あるいは被管理者のそれに対する反発を招いたりせず、管理者・被管理者の双方の利益、ひいては組織に対する利益をもたらすことができるのではないかと思います。

2. 参考文献

渡邊芳之 (1998) メタファーとしての「こころ」 〜 心的概念が意味しているもの. 北海道医療大学看護福祉学部紀要,5,pp 75-82.アクセス日:2001/8/6,http://www.obihiro.ac.jp/~psychology/kiyou97.html.




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